訳者ノート:金星貨物便(宇宙船乗りランスロット・ビッグス 第一話)

ネルスン・ボンドのユーモア・スペースオペラの傑作、「ランスロット・ビッグス」シリーズの第一話"F. O. B. Venus"を翻訳してみました。

シリーズの成り立ちについて(Web情報の受け売りで)解説しますと、1930年代から1940年代にかけて複数の雑誌に発表された13本の中・短編の連作です。1950年には"Lancelot Biggs: Spaceman"として結合されて一本の長編の単行本になっています。

日本のSF読者に馴染みの深いであろう『宇宙人ビッグスの冒険』(SF少年文庫/SFロマン文庫)は、この長編版を底本とし、主に前半のエピソードを元に、亀山龍樹が大幅に改作したものです。亀山先生の訳文の冴えと言い、水野良太郎のイラストの冴えと言い、同文庫では他に類を見ないユニークな名作に仕上がっています。私事で申しわけありませんが、少年時代の私の愛読書の一つであり随分とヘヴィーローテーションしたものです。成人してからは単行本版の原書も読みました(わたしが定価で購入し、精読で通読した最初の洋書かもしれません)。そして亀山先生の名リライトぶりに気づいて驚嘆した記憶があります。

さて、思い出深い本シリーズですが、長編版については著作権が存続している模様ですが、雑誌掲載版についてはその限りではなく、Internet Archiveに有志が原文をアップロードしてくれていることに気づいたので、翻訳を開始してみました。

経験上、少年時代に読んだ傑作の完訳版・新訳版は、かえって思い出を汚すだけの代物になりがちです。そうはならないように極力『宇宙人ビッグスの冒険』のフレーバーをリスペクトし、保つよう努力はしております(例えば、訳語は準拠しています)が、しょせんはアマチュアの仕事なので至らない点はご勘弁願います。なお訳語以外についても、『宇宙人ビッグスの冒険』を大いに参考にさせていただいています。

(2019年07月21日)

追記。本話は、単行本版の第一章および第二章に相当します。亀山版で言えば第一部の第二章から第六章(「ふとっちょ船長が『やせた、やせた』ということ」、「積荷係がにせ病気になること」、「試験のお点がわるいと帰りの足がにぶること」、「ビッグスが空中で金のたまごをひろうこと」、「サタン号、錬金業をはじめること」)に相当します。

ちなみに亀山版の第一部第一章「まず、みなさんにぼくが話すこと」は二種類の原作のいずれにも対応する部分が無く、恐らく亀山龍樹先生の創作と思われます。

また、亀山版における大時代でユーモラスな章題も原作には存在しません。亀山先生の創作の模様です。

(2019年07月26日)