突然、異様な風体の集団が電気障壁を突破して入って来た。奇妙な装備で身を固めた無法者たちだった。たくさんの金属製のリングが男たちの身体を保護しており、電撃は全て受け流されているようだった。彼らが近づいて来ると、その装備は複数のリングから成るのではなく、一本の連続したコイルから成っていることが分かった。コイルは、頭のてっぺんの方では直径が小さくなっており、足先の方はそのまま広がって地面に引きずられていた。
「抵抗器の一種だろう」と船長がささやいた。その表情は暗かった。「それで電撃の中でも平気で歩けるんだ」
クエンティンは電子ピストルを構え、ゆっくりと近づいて来る無法者の一人に発砲した。コイル鎧がほのかに白熱したようだが、それだけだった。敵の歩みは止まらなかった。
「最後のチャンスだ!」わたしは叫んだ。「やつらの装備を奪おう!」
クレイグリー船長はすばやく判断した。戦わずして降参するのは自分のやり方ではない。だが武器の通用しない相手にどうやって立ち向かえばいいのだろうか。
数人の敵が林に突撃して来た。乗客たちはパニックに陥った。船長が警告の叫びを発したのを無視して、彼らは重装備で動きのにぶい敵の前から逃げ出した。怯え、惑い、彼らは電気でできた障壁の方へまっすぐ駆けて行った。そのうち3人がパチパチと音を立てる電気に包まれ、あっという間に感電死した。4人目は危ういところで踏みとどまった。
コイル鎧の連中の一人が、4人目の男に近づいた。怯える男は電子ピストルを構え、敵に発砲した。だがC-49の墜落から生き残ったこの男は、健闘むなしく3人の仲間の後を追うことになった。
突然、悪党どもの宇宙船から声がした。スピーカーで何倍にも増幅された声だった。
「エー、C-49号の搭乗員と乗客に告ぐ。プラチナを持って、隠れ場所から出てこい。死にたくなければ電気障壁からは離れていろ。出て来なければ、狩り出してやるぞ」
障壁の内側にいるコイル鎧の連中は、わたしたちが命令に従うかどうか見極めようと、いったん攻撃の手を休めた。さらなる悪党どもが防護服を身に付け、パチパチと騒音を立てて電気障壁を超えて来た。強力な電撃がコイルの表面を踊り回り、そして地面に吸収されていった。
クレイグリー船長は躊躇し、心を決めかねていた。その額には深いしわが寄った。さっきまでの彼はごくわずかな可能性に賭けてみようと決意していた。しかし今、戦って勝てる可能性はさらに薄くなっていたので、決意は弱気に席を譲りつつあった。
「どうやらここまでのようだ、クエンティン」と、船長は思案しながら士官に言った。
クエンティンは船長の命令を待った。その時宇宙船から再度放送があった。その甲高い声は癇に障ることこの上なかった。
「アー1分以内に姿を見せろ! さもなければ皆殺しにしてやる。お前たちに残された時間は……」
「持ちこたえろ!」と別の声が最初の声を遮ってスピーカーから聞こえて来た。「君たちには味方が――」
そこで声は途切れ、全くもって残念なことに格闘するような音が被さった。
「その場所に隠れているんだ!」二番目の声はかすれていた。「そのままで――」
カチンという音でスピーカーはオフになった。それ以上は何も聞こえて来なかった。電気障壁も一瞬だけ消えかけた。だがすぐに元に戻った。二、三秒すると電気障壁はまた消えそうになり、妙な具合に揺らめいた。
このことは宇宙船の中で必死の格闘が繰り広げられている証拠だった。電気障壁は火花を散らし、パチパチ言い、さらに大きな音を立てた。そして突如として爆発的な放電が発射体の間を吹き荒れた。
コイル鎧を来た連中は驚いて宇宙船に退却して行ったが、一人だけ、こちらの隠れ場所の近くをうろついていた男は退却しなかった。男は代わりにポケットから黒いものを取り出した。一見するとそれはピストルに似ていた。だがピストルにしては短かったし、おかしな形をしていた。
男は仲間たちが全員宇宙船に近づくのを辛抱強く待ってから、その黒い武器を持ち上げ、仲間たちに慎重に狙いを定めた。男の理外の行動はわたしを驚かせた。彼は同類を裏切ったのだ。何人かの悪党どもが宇宙船の甲板から転げ落ちていった。
わたしの側にいたクレイグリー船長は意外な出来事の連続に言葉も無かった。奇妙なことに、男の武器は何も放出しなかったように見えた。それが実験段階にある破壊兵器、ラジウム銃だったことをわたしたちは後日知った。
「ありゃ何者だろう?」船長がつぶやいた。
「さっきのスピーカーが言ってた味方じゃないんですかね」とクエンティンが慎重に述べた。「最初の一群に混じって障壁に入って来てくれてたんです」
「そのようだな」と船長。「あの黒い銃の男は味方に違いない」
宇宙船から光線が発射され、神秘的な武器を持った男に命中した。コイル状の防護服がまぶしく発光した。男は、特に痛痒を覚えた様子を見せなかったが、その武器はどこかが壊れたようだった。男は何とか具合を直そうと試み、ノブやダイヤルをいじったが、すぐに諦めて武器を投げ捨てた。その間に悪党どもの生き残りは何とかして宇宙船に集まった。
大きな雑音とともに、スピーカーが再び声を発した。何やら急を告げる言葉がわたしたちの耳に届いた。きびきびとした口ぶりで、抑えた叫び声のようだった。
「ジャスパー! 制御室に来てくれ! 俺は籠城しているが、ドアが爆破されそうだ! 銃を持ってこい! 急ぐんだ!」
ジャスパーと呼ばれた男は自分の壊れた武器を見つめ、一瞬ためらった。そして太い方の端を掴んで拾い上げた。棍棒のような具合に銃を持ち、彼は宇宙船に向かった。
「あの男に続け!」と、威勢を取り戻した船長が吠えた。「勝機だ!」
生き残っているのは10人だけだったが、誰もがクレイグリー船長の命令で意気盛んになっていた。思いがけなく訪れた攻め時に、命がけで挑もうという心境だった。ジャスパーという男に追いついた時、パチパチ、シューシューと鳴る電撃がわたしたちを襲った。爆音が耳に響き、強烈な閃光で一時的に目が眩んだ。だが、電撃はわたしたちの頭上を通り過ぎていった。制御室の男が致命的な電気障壁をうまく弱めてくれたのだ。
わたしたちを迎え撃とうと、数人の悪党が船から出て来た。彼らはまだ動きづらいコイル状の防護服を着けていた。強烈な麻痺効果を持つガスがこちらの顔面を狙って発射された。わたしたちは石像のように動けなくなった。ジャスパーもまた、同様だった。わたしたちは直ちに武装解除されてしまった。
制御室に閉じこもった男もまた、捕らえられた。この二人が何者だったにせよ、彼らの死に物狂いの努力は失敗し、全員が捕らえられることになった。制御室の男は引っ張り出され、ジャスパーは防護服を脱がされ、わたしたちと一緒にされた。
悪党どもは、わたしたちが武器を隠していないか調べにやってきた。その時、何か冷たいものがわたしの手にこっそりと押し付けられた。ピストルだった。心臓が跳ね上がった。わたしはピストルを脇に挟んだ。ガスの効果は急激に醒めつつあった。
悪党どもの首領は、激しい怒りの表情を浮かべ、戦闘中に裏切った二人組に大股で詰め寄った。その眼には暗い炎が燃え、拳は強く握りしめられていた。ジャスパーと相棒は臆さずに見返した。彼らの眼は、来たるべき運命を恐れることなく輝いていた。
「お前らが何者かは知らんが、許さんぞ!」首領は言い放った。「お前らは二人とも苦しみながら死ぬことになる。とっておきの方法を試してやろう」
男はクレイグリー船長に向き直った。「プラチナはどこだ? あそこに隠してあるのか?」と、さっきまでわたしたちが隠れていた林の方を指さした。「それともどこかに置いて来たのか?」
「自分で探すんだな!」とクレイグリーが吐き捨てるように答えた。
「探すまでもない。お前たちを歌わせるだけのことさ」と敵の首領は意味深長に言った。「埋めてあろうと隠してあろうと関係ない。舌をほぐすコツは心得ているんでな」
絶望だった。クレイグリー船長は年貢の納め時だと覚悟した。プラチナは、敵船から隠れた時のまま林の中に置いてあった。わたしは隠し持ったピストルをもてあそんだ。
見張りを残し、悪党どもはクレイグリー船長がプラチナを残した場所に出かけて行った。
「ねえベン」とジャスパーは落ち着き払って頭を掻きながら相棒に話しかけた。「どうも上手くないようだね」
「そうだな。だが何とかせにゃならん」
「あんたたち二人は何者なんだ?」と船長が聞いた。
二人は顔を見合わせた。少しの間どちらも口を利かなかったが、ベンと呼ばれたもじゃもじゃの髭の男が相棒に言った。
「言おうぜ。作戦はもう終わりだ」
「俺たちは無法者の仲間じゃありません。そう装っていただけで」とジャスパーが言った。「こいつは俺の親友でベン・カートレイ。俺はジャスパー・ジェザン。二人ともハイコ部隊の者です」
わたしは驚きで口が塞がらなかった。危うく服の中に隠し持っていたピストルを落としそうになった。その当時、ハイコ部隊の名は宇宙に鳴り響いていた。宇宙飛行の安全を守るために設立されたこの部隊は、宇宙空間のみならず植民地も管轄し、人々を守った。
「リダジュリーと手下どもがプラチナを見つけて戻ってくれば、皆さんはお終いです。生かしておく理由がなくなりますからね」とベンが自分のジョークに笑いながら言った。 「プラチナはどこか遠くに埋めてあるんですか? それともあの林の中ですか?」
「林の中だ」と船長は落胆した様子で答えた。「やつらに捕まる前にデリフォンに逃げ込めればと思っていたんだが」
「われわれは、あなたがたを空中から容易に追跡できたのです」とカートレイが言った。「最初に宇宙船と救命艇を見つけました。それから先は、緑色の焚火を探すだけで良かった」
「緑色の焚火ですと?」と船長が興奮して言った。「それはどういう……」
「リダジュリーが戻って来たぞ!」ジャスパーが船長の言葉を遮って叫んだ。
無法者の首領と手下たちは林から小さな箱をいくつも抱えて出て来た。
「おしまいだ!」とクエンティンが悲鳴を上げた。
衝動的に、船長は宇宙船の方へ一歩踏み出した。無法者の一人が船長の前に立ちふさがり、銃を構えた。その眼には邪悪な光があった。人殺しの眼だった。クレイグリー船長に対する殺意は明らかだった。
だがその引き金が引かれることはなかった。男の顔にはうつろな表情が広がった。その奇妙な表情は電気椅子にかけられた死刑囚の表情に似ていた。男はよろめき、その場に崩れ落ちた。苦悶の叫びを発し、別の悪党も出来の悪いカカシのように倒れた。
わたしたちがあっけに取られていると、ジャスパー・ジェザンは状況をすばやく把握し、丈の高い草を透かして周囲を見回した。
そして叫んだ。「原住民だ! 金属製の投げ矢だぞ、ベン」
ジャスパーの言葉を証明するかのように、周囲のそこかしこから人間のものではない鬨の声が上がった。丈の高い草の上にやつらの頭がちらほらと見えた。ますます大量の投げ矢が飛び交い、誰もがそれを見とめた。金星の原始人たちは武器を振り回し、衆を頼んで地球人を蹴散らした。
無法者たちは散々にやられた。反撃は難しいようだった。原住民は縦横無尽、神出鬼没だった。駆けたかと思うと隠れ、姿を現したかと思えば必殺の投げ矢で地球人を攻撃した。リダジュリーは腕いっぱいに抱えていた貴金属を投げ捨て、金切り声で命令を叫んだ。
「船に戻れ!」
その時わたしはおかしなことに気づいた。C-49号の乗客乗員は投げ矢を受けていなかった。まだ生きている悪党はわたしたちを宇宙船に追い込もうとしたが、果たせなかった。無法者の数は原住民のすばらしく狙いが正確な投げ矢によって随分と減っていた。原住民も多少はやられていたが、戦いの趨勢は明らかだった。
「あいつだ! あの晩の男がいるぞ!」とクエンティンが叫んだ。
そう。まさにそのとおりだった。原住民はあの晩わたしたちの野営地に忍び込んだ男によって指揮されていたのだ。倒れた敵の手からピストルを取り上げ、ベンはこちらに向かってくる原住民の一隊にすばやく狙いを定めた。先頭は例の男だった。
「やめろ、ベン、撃つな!」とジャスパーが大声を上げた。「やつらは味方だ」
「ありゃブレイディだ!」C-49号の乗客の中から叫び声が上がった。「クリス・ブレイディだ!」
「そんな馬鹿な!」とクレイグリー船長。「あいつは死んだはずだ」
「いや間違いありませんよ船長」と、わたしも男の顔を見とめて言った。「あれはブレイディです!」
後からざわめきが聞こえて来て、わたしは振り返った。リダジュリーと生き残った二人の手下が宇宙船によじ登ろうとしていた。原住民の大群がわたしたちを取り巻いた。わたしは恐怖を覚え、後ずさった。リダジュリーは何とか甲板に行き着き、エアロックへと走った。ブレイディが発砲したのはその時だった。
わたしもピストルを隠し場所から取り出し、大急ぎで引き金を引いた。だが大きく外れた。わたしは悪態をついた。神経が研ぎ澄まされていた。わたしはもう一度よく狙いを付けた。クリス・ブレイディはこちらの射程内にいた。
引き金を絞ろうとした瞬間、ジャスパー・ジェザンがわたしの腕をぐいと掴んだ。光線は誰も傷つけずに空の彼方に飛んで行った。わたしはハイコ部隊の男と猛烈に揉み合った。カートレイも相棒に加勢し、わたしは押さえつけられた。誰かがわたしの頭をどやしつけ、わたしの意識は暗闇に包まれた。
意識を取り戻すと、はっきりとしない話し声が聞こえてきた。頭がずきずきと痛み、めまいがした。原住民の輪がわたしを囲んでいた。話していたのはクリス・ブレイディだった。どんな奇跡が彼をあの世から蘇らせたのか? わたしは彼が撃たれ、埋められるのを見たのだ。ブレイディの言葉はわたしの痛む頭に響いた。
「証拠が積み上げられるのを見て、俺は自分の無実を認めてもらうのが無理だと悟ったんです。そこでトリックを使いました。古いトリックですよ、船長。見破られるんじゃないかとひやひやしましたが、そんな目利きはあの場にいなかったようです。俺は号令を出すあんたの唇をよく見ていて、撃たれる前に倒れたんです。光線は俺に当たりませんでした。あとは大人しく死んだふりをして、埋められるのも我慢しました。人がいなくなるのを待って、地面から這い出しました。窒息寸前のところでしたがね」
「生き埋めだったと言うのか!」
「そうです。それで俺はここにいるというわけです」
「原住民のことは?」
「友だちですよ」とブレイディは答えた。「俺は金星で過ごした半生をあの連中との交易に費やして来たんです。言語も、風習も分かっています。連中は俺を尊敬しているから、命令一下、こんなことができたわけです。俺はあんたらの後を尾けました。そしてあの晩、野営地に忍び込んで食料とピストルを盗んだんです」
「無法者の仲間ではなかったというのか?」とクレイグリー船長が驚き呆れながら聞いた。謝罪の意はあふれんばかりだったが、言葉にならなかった。死刑の宣告までしてしまった無実の男に対して、いかなる言葉がかけられようか?
「そのとおりです。でもあの場では証明する術がなかった。」とブレイディ。「デリフォンにでも着けば別かもしれませんが。そこで原住民と一緒にあんたがたを追ったわけです。そして戦闘の音を聞いたんです。追いついた時、皆さんは悪党どもに攻撃されていました。俺は自分の潔白を信じてもらうチャンスだと知って、助太刀に入ったんです」
「信じるとも!」と船長は熱意を込めて叫んだ。「でも、レイナーとデイヴィはどういうことだったんだ?」
「やつらはブレイディが通信相手だと思い込んでいたんです。」とジャスパーが代わりに答えた。「今となっては明白だ、そうじゃないか? ベン」
相棒も確信を持ってうなずいた。
「あいつが本当のボスだ」
ジャスパー・ジェザンは地べたに座っているわたしを指さした。証拠は充分そろっているようだった。否定は無意味だった。
「アーン(訳注:アーネストの愛称。)が?」クレイグリー船長はびっくり仰天した。「わしが最も信頼している男だぞ」
「ブレイディこそ、最も信頼できる男です」と法の番人は容赦なく言った。「ハンテルは緑色の発炎材を焚火に入れたんです。灰の中にも痕跡が残ってましたよ。われわれが簡単に皆さんを見つけたのは、それを目印にしたからです」
「ところで、あなたがたはどうしてここに?」好奇心旺盛なブレイディが聞いた。
「デリフォンの当局は、ギャングどもが一仕事しようと企んでいることをかなり前から察知していたんです」とカートレイが答えた。「ジャスパーとわたしが潜り込む時間はたっぷりあった。だがブレイディさん、あんたと原住民たちにはずいぶん借りができたようだ。危ないところを助けてもらったからな」
クレイグリー船長はわたしの前に仁王立ちになった。「ハンテル、何か言うことはあるか?」その口調は険しかった。
「何もかもばれているようだ」わたしは痛む頭をさすり、ジェザンとカートレイを窺いながら答えた。「それに、ハイコ部隊とこんなところでやりあうつもりはない。リダジュリーは馬鹿野郎さ」
「ブレイディは無実だと認めるわけだな?」と船長。
「そうだ。デイヴィとレイナーはわたしがボスだとは知らなかった。指示はブレイディを通じて出していたからな。わたしは地球を離れてからデイヴィとレイナーに目を付けた。秘密厳守のため、命令者との会話は禁止した。そしてブレイディの身体を利用して指令を下した」
「あの襟カラー! あんたが貸してくれた茶色いカラーがサインだったのか!」とブレイディは叫んだ。
「そう。あんたのカラーを盗んでおき、こちらのを貸してやったのさ。そして保険もかけた。C-49号のラジウム推進システムを吹っ飛ばした後は、使った機材をブレイディの部屋に移して、万一レイナーとデイヴィの身に何かがあっても自分に累が及ばないようにしたのさ」
「お前をどうするかはもう決まっているぞ、ハンテル!」クレイグリー船長の表情は厳格だった。「わしの権限であらためて銃殺にしてやる。逃がしはせん」
「それはちょっと待ってもらえますか」と、ジェザンが怒れる船長に言った。「この男の身柄は、当局が預かります。別件も含め、しゃべってもらいたいことは沢山ありますので」
そう言われてしまっては、クレイグリー船長は引き下がるしかなかった。それに、結果が同じであれば処刑の場所がどこであろうとあまり気にしなかった。
彼らは無法者の宇宙船を接収し、デリフォンに飛んだ。厳重な監視下にあるわたしも乗せて。後日、わたしを油断ならぬ知的犯罪者と見なしたジェザンとカートレイは彼ら自身の手でわたしを地球まで護送したのだった。
地球でごく簡単な審問を受けた後、わたしはハイコ部隊の意向でフォボスの流刑地に送られた。ここは死と隣り合わせの場所だ。わたしは牢獄から広大な宇宙を眺めることに、一日の大半を費やしている。雄大な火星が天空を支配している。時おり、フォボスの兄弟分であるデイモスが見えることもある。独房の窓の外は真空が広がっている。ここから脱走した者はいまだかつていない。わたしはただただ諦観の境地で宇宙を眺めて過ごしている。
終わり